顔面神経麻痺
  • 病名
  • 顔面神経麻痺
私たちの顔は顔面神経と三叉神経がそれぞれ運動と知覚を主っています。
これを混同して顔面神経痛が顔面神経の障害と考える人が多いですが、顔面神経痛は三叉神経痛の事であり、顔面神経の障害は顔面神経麻痺です。
顔面神経麻痺の多くは突然顔の片側が下垂して動かなくなり、目は閉じない、口は涎が出て喋りにくい、舌の3分の2の味覚障害などが現れます。
中枢性と末梢性に分類され、顔面神経は脳神経であり脳から出ているので、頭蓋骨の中で障害されているものを中枢性、頭蓋骨の外へ出てから障害されているものを末梢性顔面神経麻痺と呼びます。一般的に末梢性顔面神経麻痺のほうが症状が改善しやすく鍼灸治療に適しています。また、治療開始は早いほど良好で、期間がたつにつれて改善の見込みが少なくなり、発症から8〜10ヶ月経過すると一般的には余り治療効果が見込めないとされていますが、当院では完治まではいかなくても症状が改善した症例が多く治療対象になります。

  • 種類
  • 顔面神経麻痺の分類
顔面神経は12ある脳神経の1つで第7脳神経とも呼ばれています。
顔面神経が頭蓋骨の中で何らかの原因で障害を受けたものを中枢性顔面神経麻痺、頭蓋骨の外に出てから障害されたものを末梢性顔面神経麻痺と呼び、一般的に鍼灸治療に適応するのは末梢性顔面神経麻痺の方です。

1.中枢性顔面神経麻痺
顔面神経が頭蓋骨の中で障害されたものであり、原因としては脳腫瘍や脳梗塞の合併症に見られるもの。
多くは脳腫瘍などの原因疾患の治療が終わって、発症から1年以上経過してから鍼灸治療を希望して来られるので、当院においても症例は有るが、思わしくないのが実情です。

2.末梢性顔面神経麻痺
末梢性顔面神経麻痺の原因は1つでは無く、それぞれ違う原因で顔面神経が障害されているものと考えられています。ヘルペスウイルスや外傷、冷えや血行不良などさまざまな原因でおこります。
その中でも大きく分けてベル麻痺とハント症候群が80%以上を占めていて、外傷や手術、耳の障害や原因不明もののもある。
手術後発症したものや外傷で顔面神経が完全に断裂しているものや、耳の障害によって顔面神経が圧迫されているケースは、末梢性顔面神経麻痺の中でも予後が悪く、外科的な処置が必要であり鍼灸治療に適用ではないので、ここではベル麻痺とハント症候群の説明をしておきます。

①ベル麻痺
ベル麻痺は末梢性顔面神経麻痺の中でも70%以上を占め、最も多く予後も良くその9割は後遺症も無く改善します。
窓に顔をもたれて一晩夜汽車に揺られて朝気が付くと夜風で顔が麻痺してしまった。
職場の人間関係で悩み居酒屋やスナックを飲み歩き、気が付くと公園で寝ていて顔面神経が麻痺していたなどと、冷えやストレス、過労などが原因でないかと考えられてきましたが、最近は単純性ヘルペスウイルスによるものとされています。

②ハント症候群
水痘帯状疱疹後顔面神経麻痺の事をライゼム・ハント症候群と呼び、ベル麻痺とは区別して治療する。
耳の周りに出来た帯状疱疹の後に顔面神経が麻痺するもので、顔面神経が帯状疱疹ウイルスによって浸蝕されて、神経線維が損傷されている範囲が大きいことから、ベル麻痺に比べて改善率が悪いのが現状です。ハント症候群は末梢性顔面神経麻痺の10%を占める代表的な末梢性顔面神経麻痺です。

  • 治療
  • 顔面神経麻痺の鑑別
顔面神経麻痺は中枢性と末梢性のものがあり、中枢性の顔面神経麻痺は脳腫瘍や脳梗塞などの原因疾患の治療が優先されるべきであり、鍼灸治療の効果はあまり期待出来ないことから、顔面神経麻痺の鍼灸治療において中枢性か末梢性かの鑑別が非常に重要となります。
また、末梢性の中でも手術の後に発症したものや外傷によって、顔面神経が完全に断裂しているものは、外科的治療が不可欠であり、最も鍼灸治療の適用となるベル麻痺とハント症候群いおいても、ハント症候群は少し治りが悪い傾向にあるので、最初に正確に鑑別診断する事が予後を予想できて間違いの無い治療につながります。


1.顔面神経麻痺の症状

①麻痺している側の額のシワガ無くなる。
②目をしっかり閉じることができず夜中に目が乾燥する、上を見ようとすると眼球が上方へ回転してしまうベル現象が現れる。
③麻痺側の口角が垂れさがり飲み物がこぼれたり、唇を丸く出来ないので口笛を吹く事が出来ない。
④舌の前3分の2の味覚障害が現れる。
⑤涙や唾液の分泌障害
⑥耳の痛みや聴力障害
⑦ハント症候群では平衡感覚異常が現れる事もある。


2.中枢性麻痺か末梢性麻痺かの鑑別

顔面神経麻痺の治療を行う上で中枢性か末梢性か、末梢性ならベル麻痺かハント症候群かそれ以外の原因かを、しっかり診断してから治療する事が重要です。

中枢性麻痺か末梢性麻痺かは額にシワをよせることが出来るか出来ないかで鑑別する

患側の額にシワをよせることが左右対称性に出来れば中枢性麻痺であり、これが出来る時には中枢性顔面神経麻痺であり、脳内に原因疾患があり鍼灸治療の効果の期待が少なくなる事を示します。


3.ベル麻痺かハント症候群かの鑑別

ハント症候群には帯状疱疹後に発症し、耳の発赤と喉の痛みや耳鳴り、平衡感覚異常などの耳にまつわる症状があり鑑別は簡単であるが、ハント症候群はベル麻痺に比べて症状も重症化しやすく後遺症が残る可能性が高いので、初めにきちっと診断しておかなければなりません。
  • 治療
  • 顔面神経麻痺の治療
中医学で顔面神経麻痺は「僻不遂」や「口眼斜」のどと呼ばれ、口がゆがみ引きつり、目をしっかりと閉合できないものを口眼斜といい、口角だけが歪むものは口僻または口という。多くは風痰が経絡の流れを阻むことによって生ずる。邪を受けた側は絡脈の気痺阻塞によって弛緩し健側は気血の運行に異常なく肌のはりは良い。弛緩部が張力の強い方に引っ張られるので健側に向かって歪む。このように解釈されている。

(当院での鍼灸治療)
中医学的に風邪や痰、あるいは足の太陽経絡や少陽経絡、手の太陽経絡の邪気を払い経気の疏通を良くする治療とともに、麻痺している顔面神経を針通電によって強力に刺激することによって、早期の回復を目指しています。
また、ベル麻痺やハント症候群などの顔面神経麻痺は、ストレスや過酷な労働、病気などによって免疫力が低下したことによって、体内に巣くっていたウイルスが活動を再開して、おこる疾患なので各々の免疫が低下した原因を正確に把握して、気血の阻滞した経絡の疏通を良くすることによって、根本的な治療を行っていきます。

  • 施術法
  • 実際の症例と施術法
Hさん 40歳 女性

昔から頭痛、肩こりがひどく、4ヶ月前に体が重く立っていられなくなり精神不安が著しく、風邪をひいて脳神経外科を受診したが、神経内科を勧められて受診して。風邪薬と安定剤を処方されたので、それを飲んで様子をみていたが、次の日の朝起きたら右側の顔面が麻痺していてた。
すぐに脳神経外科へ走り、右顔面神経麻痺であるの診断されて、注射と飲み薬を処方され、顔の運動とマッサージを指導された。
1カ月経っても涎は垂れ、症状があまり改善されないので、整形外科でリハビリとマッサージ治療を受けてい、症状が7割ほど改善したが、半年以内に治癒しなければ後遺症が残るのではないかと不安になり、インターネットで調べて当院を見つけて来院した。

【所見】
額のシワをよせる事が上手くいかない
耳の障害や平衡感覚障害などの症状が無い
上を見ようとするとベル現象出現


【経過】
隔日に1週間に3回のペースで鍼灸治療に来てもらい、整形外科での温熱療法とマッサージも平行して加療してもらい。
1か月後には見た目では判らないほどに回復し、2カ月で目や口の動きや舌の前3分の2の味覚も全く正常になり治癒としました。

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