後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症
  • 病名
  • 後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症
楽天の星野監督が患ったことで一般的に知られるようになった後縦靭帯骨化症。
脊柱には脊柱管という脊髄神経の通る管があり、脊柱管を構成する前の部分が後縦靭帯であり、後ろの部分が黄色靭帯である。その後縦靭帯や黄色靭帯が何らかの原因で骨化して、脊髄神経を圧迫しておこる首や背中、腰の痛みや間歇性跛行などの
特徴的な症状を呈する疾患です。欧米に比べて日本では高頻度発生し、原因は不明で重症になれば手術が必要です。
  • 症状
  • 症状
後縦靭帯骨化症は骨化する部位によって、頸椎後縦靭帯骨化症、胸椎後縦靭帯骨化症、腰椎後縦靭帯骨化症に分類される。

頸椎後縦靭帯骨化症では、初期症状として頸部や肩甲骨周囲の筋肉のコリや痛みがあり、上肢にシビレや感覚異常がおこり、症状が進行してくると痛みやシビレの範囲が広がり、足のシビレや感覚障害がおこり、重篤な場合は歩行困難や排便、排尿障害などが起こる。
胸椎後縦靭帯骨化症では体幹や下半身に症状がでて、初期には下肢のシビレや脱力化がおこり、症状が進むと歩行困難や排便排尿障害がおこる。
腰椎後縦靭帯骨化症では歩行時の下肢のシビレや脱力感がおこるので、椎間板ヘルニアや腰椎分離症などとの鑑別診断が必要です。
症状の進行は個人差があり、必ずしもすべての患者さんが重症化して手術が必要になるわけではなく、半数以上の患者さんは進行せずに症状が変化しません。
重症化して歩行困難や排便排尿障害がおこった場合は手術が必要であると考えます。
  • 治療
  • 後縦靭帯骨化症・黄色靭帯骨化症の治療
この疾患は症状の進行に個人差が大きいので、じっくりと経過観察することが重要です。以前は診断されると即手術しかない疾患とされていたが、現在では症状のひどいケースは手術を勧められるが、それ以外は保存療法を行い、症状に改善が見られず悪化して歩行困難や排便排尿障害などの重篤な時に手術を考えます。
理学療法や運動療法では関節の可動域確保や筋力強化により、患部を安定させて痛みを緩和する事を目的とするが、この疾患は患部を打撲したり衝撃を加えられることにより、急激に症状の進行が進むことがあるので、乱暴な治療で患部を刺激して症状の進行を早めてしまう事があるので、慎重に進める必要があります。

①薬物療法
・消炎鎮痛薬
・筋弛緩剤
・ビタミンB12

②理学療法
・頸部カラー固定
・患部をホットパックや電気治療で温める温熱療法
・頸椎や腰椎を牽引器で牽引する牽引療法
・超音波や低周波を通電する通電療法
・ストレッチやマッサージ

③運動療法
腹筋、背筋、大殿筋などの脊柱を支える大きな筋肉を中心に筋力強化し、腸腰筋や大腿四頭筋のように骨盤を正常な姿勢にしてくれる筋肉を鍛えることにより、背骨が補強され正しい姿勢を保つことにより、患部にストレスのない状態を作ります。

④神経ブロック療法
飲み薬の痛み止めが無効だった時に行われます。
・硬膜外ブロック注射
・神経根ブロック注射
・トリガーポイントブロック注射

⑤鍼灸治療
薬や神経ブロックで痛みが治まらない症状でも、鍼灸治療で治まることがありますので、外科で手術を勧められたら、その前に鍼灸治療を是非お勧めします。
MRIやCTなどの画像診断で後縦靭帯や黄色靭帯の骨化が進み脊髄神経が圧迫されている症例でも、鍼灸治療で痛みやシビレ、間歇性跛行が消失しますので、画像診断で医師に「これだけ圧迫されているのだから手術しかない」と言われても、手術に踏み切る前に是非鍼灸治療を受けた頂きたい。

⑥手術
脊柱管狭窄症の手術は狭くなった脊柱管の通りを良くすることが目的となります。
脊柱管が狭くなっている靱帯を切除したり、脊椎の一部の骨を切除して除圧します。

1.椎弓切除術
背部を大きく切開する方法と、内視鏡を使用する方法があるが、脊柱管の内圧を下げるために椎骨の後方にある、椎弓を取り省く方法である。
椎弓の切除のやり方はいくつか種類があり、除圧法とも言われます。
2.椎体固定術
分離症やすべり症などの椎骨の不安定が著名なケースに選択される術式です。
変形した椎間板を摘出し、人口の椎間板で内方から固定し、上下の椎骨を外からビスで固定します。

いづれの手術もリスクが伴います
合併症
1.手術の際に神経を損傷することによる、下肢の麻痺、知覚鈍麻、排尿排便障害
2.術後椎間板炎(椎間板に炎症がおこり、激しい腰痛が続く)
3.創部に血腫が形成し、神経を圧迫して神経麻痺や下肢に放散痛が続く
4.腹部の大動脈を損傷して手術中の大出血を起こす
5.深部静脈血栓症
6.肺炎など
  • 施術法
  • 実際の症例と施術法
Mさん 77歳 男性

去年の秋から背中から腰にかけて張りと冷えのような違和感を感じて、整骨院や整形外科で治療していたが、平成25年の年末に忘年会のはしごをした帰りに、足が一歩も前に出すことができなくなり、しばらく休憩してから妻に肩を貸してもらって家に帰ったが、腰部の激痛と両足の太ももの裏にかけて重だるい痛さが残り、翌日整形外科でレントゲン検査を受けて、脊柱管狭窄症と診断された。しばらく通院したが改善しないので、脳神経外科でMRIで精密検査を受けて胸部後縦靭帯骨化症と診断された。
その後も整骨院や整体院へ通院していたが悪化の一途をたどり、飲酒の後は決まって間歇性跛行が著しくなり、好きなゴルフも行くことができなくなり止めてしまい、毎日家の近くを歩いたりスポーツジムに通って運動療法して、整骨院をやっている友人に治療してもらっていたが全く改善されず、困り果てて昔当院で首の痛みを鍼灸治療で一回で治った事を思い出して来院した。

【所見】
SLR、パトリックテスト左右陰性
右小野寺殿点周囲の圧痛著名
体幹回旋、臀部持ち上げ運動OK
第11〜12胸椎右側に硬結と圧痛あり右足をかばい逃避性跛行右外顆の上5cmに圧痛と疼痛

【弁証論治】
紅舌、裂紋舌、舌苔薄、顔色黒、脈平緊

(証)   脾気虚症 痰飲
(治則)  健脾益気 化湿

【経過】
初診 治療後痛みはあるが全体的に緩和し、体が軽くなったように感じるので。
    早く良くなろうとして運動をし過ぎていたので、全てのストレッチや運動療法          整骨院や整体通いを禁止して、10日間毎日通院してもらうこととした。

2診 やっはり痛みが続いている

3診 痛みの質が軽くなってきたように感じる

4診 変化なし 

5診 背中から腰部の痛みが無くなってきて、日常生活が楽になってきた 

6診 日常生活の問題なく、右足の痛みのみ

7診 経過良好でそろそろスポーツジムや友人と居酒屋やカラオケに行きたいと訴えるが、治療開始から10日しか経っておらず引き続き安静を指導する。
   その後隔日通院にする

【考察】
この患者さんは胸椎後縦靭帯骨化症と腰椎椎間板ヘルニアを両方もっていて、今回の症状の原因について整形外科と脳外科のドクターの見解が違い、あちらの先生は後縦靭帯骨化症が原因だ、こちらの先生は椎間板ヘルニアが原因だと言っている。
後縦靭帯骨化症の原因は解明されていないが、何らかの原因で靭帯組織に仮骨組織が侵入して骨化するので、患部へのマッサージやストレッチ刺激は症状を悪化させ進行を早める結果になる事は明らかであり、本人が治療のために積極的に取り組んだ事が全て逆効果だったのである。
それまで取り組んでいた治療を全てキャンセルして、当院の治療のみを最優先にしていただいた事が、早期改善に結びついたものと考えている。

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